十津川の注小支谷  39 長殿谷 


《注意 2011年紀伊半島豪雨による土砂災害で道が崩壊したり谷の渓相が大きく変化している場合があります》


  

2011年紀伊半島豪雨直後の長殿谷(フォト蔵 ぶんぶんさんの写真をお借りしました)

http://photozou.jp/photo/top/2022623

  猿谷ダムを過ぎて城門トンネルを抜けると、国道168号線は下り坂になる。長殿水力発電所(2011年紀伊半島豪雨災害で完全に破壊された)の手前で本流の右岸にぱっくり開いた谷がある。車からは見えない。この長殿谷も谷の右岸斜面の大規模崩壊によって谷が埋まり、土砂ダムが出来て一時はたいへん危険な状況になった。現在は大規模な土木復旧工事が行われているが、先が見えない状況だ。

  一時、僕は、見えない谷、隠れた谷を好んで求めた。先の黒河谷もそのひとつであり、ほかにも十津川本流域には月谷、親の谷、葛谷などがある。
  
長殿谷には、下手の長殿辺りから本流を横断し右岸の川伝いに入る。しかし、平常時でも水深が浅く見えていても本流の芯は流れがきつい。増水時の徒渉は禁物。ひざ上くらいならなんとか耐えられるが、へそ辺りまで水が来るようだとバランスをくずす危険がある。水に濁りがあれば深さの確認が出来ない。こんな条件の時は絶対に川に入ってはならない。谷の入り口の砂防堰堤(現在はすっかり埋まっている)を超えると、明るく開いた平坦な瀬が続く。のびのびと竿を振るうことが出来る。しかし300mくらいで岩場が現れる。ここを突破するには相応の覚悟が必要だった。だったと言うのも、おそらく復旧工事が終わっても長殿谷は元の姿に戻ることはないと思うから。次に入る機会が訪れるのはいつのことになるやら。自然は何千年、何万年の気の遠くなるサイクルで姿を変えていくのだろう。人の人生の及ぶところではない。この長殿谷も、すでにまぼろしの谷になってしまった感がある。