十津川の注ぐ小支谷  30 黒河谷 


《注意 2011年紀伊半島豪雨による土砂災害で道が崩壊したり谷の渓相が大きく変化している場合があります》

猿谷ダム  遠方に見える谷が黒河谷

  国道168号線天辻峠を南下すると猿谷ダムが眼下に広がる。あまり大きなダムではないが、紀ノ川水源として重要な役割を果たすダム湖だ。十津川水系にあって紀ノ川水源とはと不思議に思うかもしれないが、紀ノ川十津川総合開発の切り札となったダムである。水不足に悩む奈良盆地への吉野川分水を行えば下流の和歌山県民の水が不足する。そこで、熊野灘に流れる十津川の水の一部を、山越えで逆流させて吉野川支流の丹生川に注ぐ。奈良盆地に取水する水量と同じ水量を十津川の水で補うという壮大な土木工事が紀ノ川十津川総合開発だ。猿谷ダムの中ほど右岸に開く谷がある。バックウオーター辺りは伏流になっているが、川幅はそこそこある。ダムの向こう岸にあるため、簡単には入れそうもない。気になる谷だ。この谷に入るには2つの方法がある。ひとつは、ダム堰堤を渡り、右岸の山をへずりながら辿る方法。もうひとつは、中原川に沿って入り、途中で中原集落に上り、尾根越えの山道を辿って黒河谷の中ほどに降りる方法だ。地図には山道が記されているので試したが、中原集落からは案内なしではどこから入ればいいのかよくわからず断念した。そこで、ダムの右岸をへずりながらの釣行となったが、堰堤からしばらくは山道があるものの途中からはけもの道、あるいは崩壊があって、藪の中の道なき道を汗をかきかき、やっとの思いで辿り着くことが出来た。バックウオーターからすぐに薄暗い谷になる。ポイントもあり、天然の黄ばみがかったアマゴが顔を出す。しかし、岩をよじ登りながらのタイムロスが激しく、上に向かうにつれて両岸の岩壁がもたれかかってくるような圧迫感があり、気味が悪い。厳しい段差を乗り越えていく度に気力が失せる。中原からの山越えでは、平坦な中央部に出ることが可能なようだが、下手からのアタックでは、そこに行き着くまでに引き返してしまった。バックウオーターで遊んでいると、突然、竿をU字に曲げる強烈な引き。ダムには巨大アマゴ伝説があり、胸が高まったが、長い時間の格闘の末、腹を見せたのは60センチばかりのコイだった。気になる谷には違いないが、下手からは二度と行くことがないと思う。