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吉野川合流付近・大きな段差の堰堤が続き、ぐんぐん標高をかせぐ。 | 車道からはるか下の谷が、急に近づいてくる。この下手は相当激しい段差のある谷。このあたりからやっと谷歩きが出来る。上流部は平坦で穏やかな小川となって渓流の良さは極端に薄くなる。放流釣り場もある。 |
国道169号線は、建設中の大滝ダムを過ぎると吉野川左岸の高い位置をいくつかのモダンな橋を抜けて大台方面に向かう。大滝を過ぎて間もなく川上村役場や杉の湯ホテルなどが集中する町並みに入る。そこからすぐ目の前の高原トンネルを抜けると道の右側に大きな谷が開いて見える。この上流には高原の集落があり、放流釣り場もある。自然渓流をうまく利用して人工的な区切りをできるだけつけない自然放流釣り場として人気がある。早朝からこの放流釣り場に入り、残りものの渓流魚を釣っているうちに、業者がどこに入れますかと聞いてくる。好きな場所を指定して入れてもらう。うまくいけば購入した放流魚以外の残り魚が多く釣れて大漁にほくほくすることもある。早起きは何十匹の得になる遊び場だ。
吉野川出会いから高原集落までは、急激な落差のある険しい渓相で、落差緩衝のための砂防堰堤もあり下からの遡行はとても難しい。管理釣り場から上流は穏やかな、しかし手狭な渓相なので初心者でも安心して釣り歩くことができるだろう。ただし、入渓者が多く釣り荒れは覚悟しておかねばならない。上流部で谷は2つに分かれる。いずれも細い谷だが、右の谷はブッシュがあり、その分人は入るのを避けることになる。提灯吊りを覚悟ならおもしろい釣果が得られるかもしれない。僕はここでずいぶん提灯吊りの練習をしたものだった。
かつてここでバッテリーで魚を捕っているならず者に出くわしたことがある。小さな淵なら一発で一網打尽の必殺漁法で、もちろん魚法違反だ。こんなのに出逢った日は終日うっとおしい気分になってしまう。魚もたまったものではなかろう。竿をたたみ、最低の気分で帰ろうとすると、その男が声をかけてきた。にいちゃん、一杯やっていけへんか。酒を出して僕を誘っているのだ。いや、けっこう、ぶすっとして去ろうとすると後ろから追いかけて声がかかった。にいちゃん言わんといてな。警察に通報するなと言っているのだ。
なんということだ、釣り人のクズを警察に売った後、そこで竿を出す僕を想像して、自分がもっとクズ人間のように思えて最悪の気分になってしまった。いや、本当に最悪なのは、そんな駆け引きも関係なく必死でそこで生きる魚たちなのだけれど。