19・ 20 吉野川支流上多古川・上谷


11 吉野川支流下多古川 

 

 上多古川と対になった名称を持っているが、渓相はまったく異なる。とても不思議な谷である。というのは、吉野川出合から約1キロメートルは水がほとんどない枯れ谷なのである。ごく小さな山の谷で渇水時に枯れるところはままあるが、下多古川は、そこに水がないというのが不思議なほどしっかりした川床を持っている。大小さまざまな岩がごろごろと川床を埋めている様子から、かつては、とうとうと水が流れていたことを容易に想像させるのだが、いつ、なぜ、水がなくなったのか、上流にダムでもできたのか・・・答えはNO。ダムも、導水管もない。集落先くらいから、少しずつ川に水が現れる。地元の人からさらにおもしろい話を聞くことができた。伊勢湾台風で川の様子が大きく変わったとのこと。僕にも伊勢湾台風には、たくさんの思い出があるが、そのことはさておき、このあたりは、川の氾濫や山崩れなど、村が壊滅するほどの被害が出た。川はかつての面影をまったく残さないほどに変わってしまい、その後、川には水がなくなった。伊勢湾台風前には、川には水があって魚もたくさん泳いでいたそうだ。水がなくなったのはこの台風後のことと言う。おそらく相当量の土砂が川床の下に積もっており、水が伏流しているのではないかと考えられる。上流で流したものが、吉野川の白川渡(中奥川出合あたりの地名)に出てくるとの伝承もある。まんざら嘘ではないかもしれない。というのも、この近くには地下鍾乳洞があって、とうとうと流れる地下の川を実際に見ることができるからだ。これは僕の想像だが、下多古川下流は単に伏流川床というよりは、地下に小河川があるのではないかと考えている。まさかそこに魚は住んではいないと思うが。