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![]() 工事中(左)と完成した大滝ダム。ダム工事には本体よりもダムに付随する周辺の道路や護岸の工事がとてつもなく自然を破壊する。川上村の吉野川は水路と化してしまった。ダムの必要性も分からないではないが、美しい川は二度と戻らない。 |
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蜻蛉(カゲロウ)の滝 | 今は昔。大津古谷ありし頃 |
吉野町と川上村境の五社トンネルを抜けたところが西河という集落だ。すぐ右に小さな谷川がある。このあたりの風景は大滝ダム関連事業と村おこし観光事業で、この10年の間にすっかり変わってしまった。「あきつの小野」と称される音無川周辺には、もくもく館、木芸館、公園など地域整備がすすみ、その奥に、「蜻蛉の滝」とよばれる落差30メートルのこじんまりとまとまった滝がある。公園整備がすすみ、日曜日には近郊ならず大阪などからたくさんの家族づれで賑わっている。写真家も大きなカメラをかついでこの滝を撮りにやってくる。この谷は、桜の奥千本として知られる吉野山金峰神社の東、青根ヶ峰を源流域として東に流れ下る小谷だ。蜻蛉の滝上方は地域の簡易水道水源になっており釣りなどの入川は禁止されている。もちろん、これだけ一般の観光客があると、滝壺の魚を狙って竿を振っているわけにもいかないだろう。公園内を流れるコンクリート床河川をふらふらとアマゴが泳いでいたりするのが奇妙に思える。かつては、一人で遡上するには最適な谷だった。適度な水量と段差のある谷。魚影も濃く、山を分け入って奥へと続く感じが好きだった。
川上村大滝にダム建設の工事が始まってどれくらいたっただろう。いつ終わるのかもわからないようなダム付随工事が続いてきた。道路、橋、トンネル、住居移転、などなど、本体ダムの着工に至るまでのあらゆる大工事が川上村吉野川本流の広範囲で行われてきた。4半世紀を費やした大土木工事は、今年、ようやく本体ダム堰堤へのコンクリートの打ち込むが始まって、その全体像を見せた。村の上流域に大迫ダムがあるので、大滝ダムに水が貯められると、川上村を流れる吉野川本流域はほとんど水没する。折しも来年から川上漁協は事業を停止するという。道もできた。学校も新しくなった。観光客むけの建物もどんどんつくられた。だが、そのために消えたものも多い。集落が、谷が、森が、そして人が・・・。地場産業である森林不況で、村は観光行政に生き残りをかけて奔走した。ところが、自然観光の中心である吉野川そのものが巨大な水たまりになってしまうという矛盾。
大津古谷も消えた谷のひとつだ。写真の谷は、今は、三面コンクリートの水路になって、旧国道から100メートルも上方にできた新国道の下で交差し、吉野川に落ち込んでいる。大滝からトンネルを越えるとすぐ小さな橋がかかっている。車は高速で走り去る。だれも、そこに美しい谷があったことを知らない。ひっそりと深い森に守られた谷だった。