五條からは車で15分ほどで西吉野村城戸に着く。丹生川本流とその支流宗川との合流点だ。さらに15分ほどで旧168号線のある立川渡。ここから宗川は渓流の様相を色濃くする。近場で渓流の雰囲気が味わえる貴重な河川だ。けっこう奥行きが深く、川沿いの道は天川村の入り口の笠木峠まで続き、谷もそこで途絶える。日裏という奈交バスの終点集落が谷筋にあるため、宗川というよりは日裏の谷といった方が僕たちにはわかりやすい。10数年前までは、すごく魚影の濃い、美しい川だった。小さな谷がいくつかあるが、そんなところでも25センチを越える美しい天然アマゴがひと夏に何匹か釣れた。雨の後には、アマゴが沸くようにして出てきた。が、源流部のトンネル工事と釣り人の激増で、最近はめっきり魚が少なくなってしまった。水量も激減している。やはり山は守らないとだめだ。西吉野漁協は毎年放流事業を行ってはいるが、放流数も少なく、川あれが進んでいる。道沿いに点々と民家が続くが、それもまた風情があってよい。割と雑木も多く、秋にちょっとドライブというのもいいかもしれない。車道から川面までの高さもさほどないので、どこからでも川に降りられる。水に足をつけてぼうっと山や木を眺めていたいときなどには、最適な川だ。釣りは初期は宗川野から茄子原、中期以後は川股口から上流がよい。ただし、このあたりは普段は水量がきわめて少ないので、釣りにならない。雨後のみ。支谷の川股川も奥の深い小谷だが、土木工事が続いて近頃は竿を出す人もいない。
立川渡に落ち込む旧国道沿いの谷は傾斜がきつく暴れ谷で、このような傾斜緩衝の堰がつくられた。何十段あるのだろうか。独特の景観だ。
春の小川の・・・と歌いたくなるようなおだやかな水の流れ。小さな渦ができて、また消える。陽の光がモアレをつくり川底を動く様子はずっと見ていても飽きない。宮沢賢治のやまなしの1シーンを思い出した。
雨後の谷水は美しい。こじんまりとまとまった穏やかな渓相。手ですくって飲みたい衝動にかられるが、民家が上流に点在するためぐっとこらえる。半長のゴム靴でほとんど源流まで谷通しで歩ける。