42 北山川支流池郷川

北山川水系では、一に池郷、二に前鬼、三に白川又(シラコマタ)、四に四郷、五に立合と称されるように、険しく厳しい谷の代表がこの池郷川だ。池原ダムの堰堤から少し南に下ったところに谷が開いている。この合流点からは想像もつかない荒々しい渓相が奥にひかえている。林道が谷沿いに大峰山脈に向かってぐんぐん標高をかせいで登っていく。谷との距離も離れるばかり。はるか下方に切れ込んだ谷筋が見える。車道から谷に一番近いところから30分は急な山道を下る。水音がはるか下から聞こえてくる。大又支流との合流付近に吊り橋がかかっている。水はこわいほどに青く深い。谷筋は大きな岩が重なりながら上へ上へと続く。なめら岩で気を許すと滑りそうな緊張感が続く。

突如、切れ込んだ谷の前方に空を突き刺すような奇妙な巨岩の群があらわれる。専門的なことはわからないが、柱状節理というのだろうか、とにかく巨大な塔のような岩がにょきにょき生えている。この壮大な景色は、谷筋を歩いた者だけが見ることができる景色だ。圧倒的な迫力で見る者の魂の根幹に迫ってくる。来るな、近寄るな、とでも言うように。林道の中腹からも、山肌からむき出した巨岩の群を見ることはできるが、感動はその比ではない。釣りなどどうでもよい、そんな気にさせる。実際何度も訪れたがあまりいい目をしたことがない。たいがいこのあたりで誰もが怖じ気づいて引き返すのだろう。さらに上を目指せず、かといってすぐにも帰れず、周辺で幾度も竿を振り出すものだから魚もたまったものではないだろう。さらに上流に歩く者だけが、桃源郷を見る権利を得る。ザイル等の登攀具なしには源流にたどりつけないと思う。僕のような素人にはとても遠いあこがれの桃源郷。水の切れるところ、そこは大峰連峰南の主峰、釈迦ヶ岳である。