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上・本沢川と白倉又谷合流地
右・本沢川源流部(伏流の後ふたたび水が現れる) 下・滝壺に転落した白倉又谷 |
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吉野川上流部には大迫ダム湖がある。このダムには三本の河川が流れ込む。上流に向かって右から、伯母谷川、本沢川、北股川である。このうち、本沢川と北股川は、吉野川の2大源流河川である。北股川は別コラムで紹介するとして、ここでは本沢川のことを書く。大迫ダムバックウオーターに流れ込む2本の河川。上流に向かって右側の河川が本沢川だ。本沢川源流域は大台ヶ原山の北斜面である。本沢川左岸には黒石谷、白倉又谷、黒倉又谷、釜之公谷などの支谷が並ぶ。黒石谷と白倉又谷沿いには林道が途中まで続いているが、黒倉又谷と釜の公谷は山を高巻いてしか入川できない。いずれの谷も小さい割に豊かな水量を誇る。さすがに大台ヶ原を源流にする谷だ。本沢川本流はほとんど川通しができ、その最上流部は伏流となり、しばらく水のないゴロ岩の谷が続く。ふたたび水が現れ、と同時に谷は細くなり三重県との県境の尾根にとけ込んでいく。分水嶺の向こう側は宮川の源流部だ。
17 黒石谷
本沢川の第一支流黒石谷は長大な美しい渓谷美を見せる。林道終点から川沿いに山道が続く。眼下に吸い込まれそうな青く深い淵と白泡の瀬が次々と現れる。山は手つかずの原生林だ。僕はこの谷の持つ雰囲気が好きで、とくに大釣りするような谷でもないのに、特に夏場には何度となく通いつめた。谷には季節にふさわしい景観があるが、黒石谷はまさに夏向きの谷だと思う。ほとんどが日陰なのだ。それだけ谷沿いの森が豊かで深い。水は谷を歩きながら飲める。それほど美しい。
とある雨の日、僕はこの谷で不思議な光景を見た。あちらこちらの岩の上に人差し指大の大ミミズがうようよとはい出してぬめぬめと光っているという情景に出くわしたのだ。ミミズの大きさは30センチ以上もあるようなもので、それは異様な雰囲気だった。雨はひたひたと絶え間なく降るし、谷は薄暗くなる一方で、これは鉄砲水でも出る前触れなのではないかと不安になり、竿を早々に畳んだ記憶がある。ミミズは雨の時には格好の餌で、ふだんは気味が悪いなどと思ったこともないのだが、このときばかりは少し恐怖した。以来、巨大ミミズに出会うことはなく、時間が経って、確かな記憶が薄れかけていた矢先、家の庭先で40センチはあるのではないかと思える巨大ミミズに再会した。
このミミズや。思わず叫んで写真に収めたが、見たことのない人には、ほら吹きと思われるのが困るので、後にも先にもこの話は自分の中にしまっておくことにしている。
5 白倉又谷
第二支流は白倉又谷だ。本沢川本流沿いの林道がとぎれて、山道になってすぐに本流左岸に口を開いている。この谷で僕は少し怖い思いをしたことがある。写真の滝壺に真っ逆さまに落ちたのである。5メートルくらいの落差だったが、滝の上の岩で足をすべらせて(というより、この石はすべりそうだなと、わざと右足を出したところすべった)、そのままあっという間に天地逆転。背中のリュックが岩はだにバウンドするや、頭から青い水の中につっこんでいた。あたりは白い泡、水中でもんどりうって流されまいとつかんだ岩の上から激しく流れてくる水に逆らっていた。なんとか岸の岩によじ登り、ほっとして気づいた。竿も眼鏡も、腰魚籠の魚も、ない。リュックの中の新聞紙につつんだ弁当が無事だったのが最高にうれしくて、がつがつ食った。まっぱだかで谷風に吹かれて飯を食う至福の時。でも、二度とは経験したくない思い出だ。