40 十津川支流 旭川  41 瀬戸谷


  国道168号天辻峠から車で約30分ほど南下すると、道は左手に大きく開いた谷の上をまたぐ。旭川だ。大峰山脈西斜面から流れ出る水を集めた渓谷である。旭橋から3キロ奥の中谷集落までは、平凡な山里の河川だが、本流が瀬戸谷と分岐するあたりから、渓相は一変し始める。両脇の山が狭まり深い峡谷となる。川の中流地点に旭ダム湖がつくられた。このダムでは、近畿でもトップクラスの水力発電設備を持っているが、特徴はもうひとつの谷筋である瀬戸谷上流の瀬戸ダムとペアになって機能する点だ。夜間、旭ダムの水は、ここより数百メートル高い位置にある瀬戸ダムにポンプアップされ、昼間、旭ダムに戻される。この標高差を利用した水揚式発電が行われている。工事は第2の黒部と称されるほどの巨大なプロジェクトであったようだ。瀬戸谷の源流部に作られた瀬戸ダムは自然岩石を積み上げて作られたロックフィルダムで、存在感がある。ここへは、関西電力が管理する私道を通って行ける。自家用車の乗り入れは不可。事前に申し込んでおけば、専用のマイクロバが案内してくれる。
 瀬戸ダムは完全管理されたダムなので、天然渓流魚の宝庫にちがいない。関電の職員の中には、釣りバカの浜ちゃんみたいなのがいて、旭ダム勤務を喜んでいるヤツがいたりして、なんて不遜なことを想像してしまった。旭ダムを過ぎると谷はゴーロの廊下となり、人を寄せ付けない迫力がある。ぐねぐねとした道を奥へ奥へと進み、不動小屋谷をまたいでさらに奥へ進むと、谷が道に接近してなだらかに瀬が続く谷筋に出る。谷の右岸に大量の水を滝になって吐き出す谷がある。七面山の東斜面を源流とする中ノ川だ。一方、本流は宇無ノ川とよばれ仏生嶽を源流とする。本筋の宇無ノ川は、ほぼ平坦な瀬が続く谷だが、その分、山道との高低差が大きくなるので帰りは山道へルートをうまく探さないととんでもない苦労をさせられることになる。中ノ川へは、その入り口に吊り橋があり、そこを渡ると、滝の上方10メートル地点に出る。沢登りの専門家たちは、ここから谷に入り、ザイルをたぐり、水しぶきを全身に浴びながら登っているようだが、急峻な滝が連続する荒々しい谷だ。山道を約2時間歩いて高巻きすれば、中ノ川の上流部に出ることができる。500メートルばかりのなだらかな瀬が現れる。大峰の稜線は近い。

 いずれにしても、旭川はほんとうに美しい川だ。その理由は、石の白さにある。石灰や石英質の白い石が川床に敷き詰められていて、その上を透明な水が流れている。それだけで、ああ、ここに来てよかったと思える風景だ。ここから吐き出される白い石は、十津川本流にも大量に流れ出る。谷瀬の吊り橋付近の河原には観光客が石で文字や絵を書いている。その白い石はこの旭川から出ている。ちなみに、十津川本流の左岸支流(舟ノ川、旭川、滝川、芦廼瀬川など)の、大峰連山を源流とする谷の石は白く、水に透明感があるのが特徴だ。芦廼瀬川上流に白谷(シラタニ)というこれまた美しい谷があるが、その名の通り白い河原の谷である。それに比べて十津川本流右岸に流れる川の石は黒っぽく欠けたようにごわごわしている石が多い。水もそのせいで黒っぽく見えてしまう。山の地質が十津川の右岸と左岸でまったく異なるというのもおもしろい。

        旭ダムより上流域の旭川



  旭川と瀬戸谷出合

瀬戸ダム

  web「瀬戸ダムの見学」様から写真をお借りしました。手前の石積みがダムの堰堤(ロックフィルダム)です。僕が見学をしたのは10年以上も前のことですが、その景色にしばし見とれたことを覚えています。ロックフィルダムとしては、九頭竜ダムなど大きなダムはいくつかありますが、瀬戸ダムは、湖と山と空が絶妙な景観を見せてくれます。。標高1000メートル。七面山が近くに見えます。現在は2011年紀伊半島豪雨の影響で見学ツアーは行っていないようです。